次世代冷媒に要求される条件/新たな指標

環境エネルギーネットワーク21  理事長 岸本 哲郎氏の基調講演「空調・冷凍業界に於ける次世代低GWP・ノンフロン冷媒動向」の内容解説の第2回目です。
今回は「(3)低GWP冷媒、ノンフロン冷媒の開発」トピックの中から「次世代冷媒に要求される条件」「新たな指標(GTP)」について取り上げます。

 

基調講演 「空調・冷凍業界に於ける次世代低GWP・ノンフロン冷媒動向」 ダイジェスト

【第1回】 「冷凍空調と冷媒の歴史」「フロン対策の経緯」 

【第2回】 「次世代冷媒に要求される条件」「新たな指標(GTP)」

【第3回】 「高圧ガス保安法の改正とフロン排出抑制法」「次世代冷媒の動向」「地球環境を守るために」

 

講演者プロフィール

特定非営利活動法人 環境エネルギーネットワーク21 理事長 岸本 哲郎 氏

1970年に東京三洋電機(1986年に三洋電機と合併)に入社。三洋電機環境システム事業部技術部長、環境システム事業部資材部長、環境システム事業部長を経て、2000年に三洋電機空調常務取締役に就任。2002年に日本冷凍空調工業会専務理事に就任。退任後、2014年8月、特定非営利活動法人 環境エネルギーネットワーク21を立上げ、環境・エネルギー問題を中心に情報の収集、発信を行う。また、早稲田大学客員上級研究員として省エネルギーシステム制御や次世代ヒートポンプ技術の研究に従事。

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次世代冷媒に要求される条件 (スライドNo.14~20)

次世代冷媒に要求される条件は「安全性」「環境性」「性能」「経済性」の観点で検討されます。

次世代冷媒に要求される条件

また、冷媒の性能に関する要求事項の一つである“LCCP(Life Cycle Climate Performance/製品寿命気候負荷)”は、全体的に小さいことが優れていることになります。LCCPの一般的な内訳が、スライド14下部に図示されています。

 

フッ素とは(スライド15)

フッ素原子とフッ素の製造過程について解説されています。フッ素同士が結合したF2分子は周りの物質を酸化してしまう強力なガスとして有名ですが、炭素との結合(D-F結合)は非常に強く、この結合を有する化合物は優れた耐熱性、耐薬品性、耐酸化性、耐光性を示すことから、さまざまな製品に使われています。

 

代表的な冷媒の分子構造と冷媒との関係(スライド16)

スライド16には代表的な冷媒の分子構造が示されています。それぞれの分子の特徴は次の通りであり、各冷媒の特性が分かります。

<分子の特性>

  • CL(塩素)分子は、オゾン層を破壊する
  • H(水素)分子が増えると燃焼性が高くなるがGWPは低くなる
  • F(フッ素)分子が増えると安定化しGWPは大きくなる

<冷媒の特性>

  • R12(CFC12):CL分子が2つ含まれるため、ODP(オゾン層破壊係数)が高い冷媒
  • R22(HCFC22):H分子が加わりR12に比べるとGWPは低下しているが、現在の基準では非常に高いレベル
  • R32(HFC32):比較的新しい冷媒であるが、H分子が二つ結合しておりGWPは低いが「微燃性冷媒」に区分されている

 

冷媒の分子構造(スライド17)

冷媒として構成できる元素「H(水素)・C(炭素)・N(窒素)・O(酸素)・F(フッ素)」の5種類とその特長について解説されています。

 

空調用機器の冷媒の候補一例(スライド18)

空調用機器の冷媒候補一例が表でまとめられています。

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HFC冷媒の次世代冷媒の代表的な3冷媒「R32」「R1234yf」「R1234yf混合」はいずれも「A2L(微燃性冷媒)*」であり、早期の温暖化対策の推進にはこの微燃性冷媒も賢く使用せざるを得ないのではないかといわれています。R32はすでに普及が始まっており、R-1234yf、R-1234yf混合冷媒は数種類が冷媒メーカーから提案が行われています。

*微燃性冷媒:可燃性がわずかに認められる冷媒のこと

次世代冷媒の特性と課題(スライド19)

現状の冷媒の多くは温暖化影響と燃焼性は相反する関係にあり、冷媒の温暖化影響を低減するためには微燃性冷媒を採用せざるを得ない状況にあります。

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冷媒の安全性基準の改訂動向例(ASHRAE34など)  (スライド20)

ASHRAE(アメリカ暖房冷凍空調学会)Standard 34という冷媒の安全性基準では、燃焼しても危害が少ない区分として、新区分「2L」が設置されました。Standard 15という基準では、施設基準を審議中とのことです。これに並行してIEC(国際電気標準会議)で同様の改正が進んでいます。2Lに期待する事項は「1.着火困難」、「2.継続して火炎伝播しない」、「3.燃焼しても被害が小さい」の3つとされています。

新たな指標について(スライドNo.21~24)

 

IPCC 5次報告書より GTP(スライド21、22)

気候変動に関する政府間パネルである「IPCC」の5次報告書(2013年9月30日に発表)に、気候変動影響の新たな指標としてGTP(地球温度変化係数)が提案されました。IPCCでは、現在使われている指標であるGWPやLCCPにGTPを加えた3つの指標を駆使することによって、省エネ性、安全性、経済性などを総合的に評価することができるよう、課題解決に取り組んでいます。

 

IPCC第5次評価報告書(AR5)におけるGTPの説明(スライド22、23)

  • GWP:赤外線を吸収する能力の相対値
  • GTP :世界平均気温を上げる能力の相対値

「地球の温度変化は、赤外線吸収と比例関係になく、特に短寿命物質では、GTP 値とGWP値は大きく異なる」

【ポイント】

  • GTPは、気候の応答性や大気と海洋の熱交換を考慮することにより、GWPに比べ、より深い物理的なプロセスを考慮したものになっています。
  • GTPは、対象とする化学物質の大気中での適応時間と気候システムの応答時間の双方を含んだものです。

このことは冷媒に高い関心を持つ方には興味深い内容ですが、今後このGTPがGWPに替わって「温暖化に対する影響を示す指標」として一般的になるかどうかは分かりません。

 

AR5におけるGWP と GTPの値(スライド24)

AR5におけるGWP と GTPの値

IPCC第5次評価報告書(AR5)における代表的な冷媒のGWPとGTPの値が示されています。この表によれば、冷媒の寿命が短いとGTPはGWPより小さくなる傾向があり、逆に寿命が長いとGTPはGWPより大きくなることが分かります。

 

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