炭素の排出量への価格付け「カーボンプライシング」

パリ協定を受けて、世界的に脱炭素社会が目指されている今、注目されつつあるカーボンプライシング。脱炭素化のために、排出される温室効果ガスの削減を促進するための施策の一つです。この炭素の排出量への価格付けであるカーボンプライシングについての概要や具体的な施策、影響について解説します。

 

1. カーボンプライシング(Carbon Pricing)の概要

2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組みである「パリ協定」を受け、世界的な温室効果ガス削減に向け、加速度を増して取り組みが進められています。

日本でも、2050年の80%削減の目標を達成するために現実的に力を注いでいく必要が出てきています。脱炭素社会を実現するためには、温室効果ガスの排出量を削減することが欠かせません。その代表的な施策の一つが「カーボンプライシング(Carbon Pricing)」です。

2. カーボンプライシングの2つの施策

カーボンプライシングの施策は、次の2つに大別されます。

(1)カーボンプライシング施策:政府が価格付けするもの

カーボンプライシング施策とは日本政府が規制をかける方法です。炭素税や排出量取引制度などがあります。炭素税はCO2排出量に課税するもので、排出量取引制度は一定規模以上の事業者の排出枠の目標を定め、目標値以上の排出量が見込まれる場合は、他の企業との間で排出枠を貨幣にて取引するという制度です。こうした人為的な価格付けは、企業へ炭素の排出量の削減行動を促します。

(2)インターナル・カーボンプライシング:民間企業が自主的に価格付けするもの

インターナル・プライシングは、民間企業が自主的に、炭素に対して価格付けを行うものです。すでにカーボンプライシング施策が行われている国を中心に実施されています。気候変動への対応はビジネス上のコストや機会に良い影響を与えるという前提に基づき、戦略的に意志決定を行うために実施されます。企業は事業計画策定や投資判断に当たって、自らのCO2排出量の管理や実際の炭素価格、あるいは投資計画・事業計画の策定の際に参考として設定する炭素価格である、シャドーカーボンプライスを組み込むようになってきています。

3.「カーボンリーケージ」への懸念

カーボンプライシングの当初のねらいは、「人為的に炭素に価格を付けて高くすれば、企業としてCO2排出の削減行動への投資も行動も進む」というものです。しかし、それは一つの見方でしかありません。「カーボンリーケージ」に転じる懸念もあるといわれています。

 

カーボンリーケージとは

カーボンリーケージとは、直訳すると「炭素の漏れ」です。端的に言えば、企業が排出規制のある日本を離れ、排出規制が緩やかな海外に生産活動を移すことで、日本の排出量を削減するということです。しかしこれは排出する地域を他に移しただけで、地球全体の排出量はむしろ増えてしまうだけです。

日本はもともとエネルギーコストが高い国である上に、炭素税が高率になれば、特に排出の多い産業は多くの税を払う必要があることから、カーボンリーケージが起きないとも言い切れません。

このカーボンリーケージは、カーボンプライシング施策を温暖化対策として実施する上での重要な論点となります。