政府が温暖化対策長期戦略 今世紀後半早期に温暖化ガス実質ゼロに

政府は2019年4月23日、日本が排出する温暖化ガスについて、今世紀後半のできるだけ早期に実質ゼロの「脱炭素社会」にすることを目標に、2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減の実現に向けて、大胆に施策に取り組む戦略をまとめました。温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」に基づき、政府は戦略を6月中旬に国連に提出する方針です。この概要をご紹介します。

パリ協定長期成長戦略案のポイント

今回まとめられたパリ協定長期成長戦略案は、5章から成ります。それぞれの章の要点を簡潔にご紹介します。

第1章 基本的考え方

 

本戦略案の趣旨・目的

パリ協定で策定・通報が招請されている「長期的な温室効果ガスの低排出型の発展のための戦略」(長期戦略)を策定すること。日本の考え方や取組を世界に共有し、1.5度の努力目標を含むパリ協定の長期目標の実現にも貢献し、国際的な議論をリードすること。

 

長期的なビジョン

最終到達点として「脱炭素社会」を掲げ、それを野心的に今世紀後半のできるだけ早期に実現するとともに、2050年までに80%の削減に大胆に取り組むこと。

 

政策の基本的考え方

ビジョンの達成に向けて、ビジネス主導の非連続なイノベーションを通じた「環境と成長の好循環」の実現、取組を今から迅速に実施し、世界への貢献、将来に希望の持てる明るい社会を描き行動を起こすこと。

第2章 各分野のビジョンと対策・施策の方向性

エネルギー、産業、運輸、地域・くらしの各分野の排出削減において目指すべきビジョンと、そのビジョン実現に向けた対策・施策の方向性が検討されました。

 

1. エネルギー

エネルギー転換・脱炭素化を進めるため、省エネ、再エネ、蓄電池、水素、原子力、CCUS*1等、あらゆる選択肢を追求することをビジョンとし、再エネについては主力電源化、火力についてはパリ協定の長期目標と整合的にCO2排出削減、CCS*2・CCU/カーボンリサイクルの推進、水素については水素社会の実現、省エネ/分散型エネルギーシステムの構築などが挙げられました。

  • *1:CCUS「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」の略。分離・貯留したCO2を利用しようという、CO2排出量を抑えるための取り組みの一つです。例えば米国では、CO2を古い油田に注入することで、油田に残った原油を圧力で押し出しつつ、CO2を地中に貯留するというCCUSを実施しています。CO2削減が実現できるだけでなく、石油の増産にもつながることからビジネスにもなっています。
  • *2:CCS「Carbon dioxide Capture and Storage」の略。「二酸化炭素回収・貯留」技術のことで、CO2排出量を抑えるための取り組みの一つです。発電所や化学工場などから排出されたCO2を、他の気体から分離して集め、地中深くに貯留・圧入します。

 

2. 産業

新たな代替生産プロセスを確立し、脱炭素化ものづくりを実現することをビジョンとし、施策としてCO2フリー水素の活用(ゼロカーボン・スチールへの挑戦等)、CCU/バイオマスによる原料転換(人工光合成等) 、抜本的な省エネ、フロン類の廃絶等が挙げられました。

 

3. 運輸

“Well-to-Wheel Zero Emission”チャレンジへの貢献、2050年までに日本車1台あたり温室効果ガス排出8割減を目指すといったビジョンを掲げ、施策として、ビックデータ・IoT等を活用した道路・交通システム等が挙げられました。

 

4. 地域・くらし

「地域循環共生圏」を創造し、2050年までにカーボンニュートラルでレジリエントで快適な地域とくらしを実現すること等をビジョンとし、対策としてカーボンニュートラルなくらしへの転換や、カーボンニュートラルな地域づくり等が挙げられました。また、吸収源対策については、温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を実現するために、十分な吸収源の確保を目指すことが挙げられました。

第3章 「環境と成長の好循環」を実現するための横断的施策

続いて、「環境と成長の好循環」を実現するための横断的施策について、1.イノベーションの推進、2.グリーン・ファイナンスの推進、3.ビジネス主導の国際展開、国際協力における具体的施策が挙げられました。

 

1. イノベーションの推進

基本的方向性として、温室効果ガスの大幅削減につながる横断的な脱炭素技術の実用化・普及のためのイノベーションの推進、社会実装可能なコストの実現、最新の科学的知見を踏まえた技術の絶え間ない見直しが示されました。そして革新的環境と、経済社会システム/ライフスタイルのイノベーションが挙げられました。

革新的環境イノベーション戦略

コスト等の明確な目標の設定、官民リソースの最大限の投入、国内外における技術シーズの発掘や創出、ニーズからの課題設定、ビジネスにつながる支援の強化等が戦略として策定されました。

具体的には、挑戦的な研究開発の推進や、G20の研究機関間の連携を強化し国際共同研究開発を展開(RD20)する等、そして実用化に向けた目標の設定・課題の見える化が挙げられました。

実用化に向けた目標の設定・課題の見える化

CO2フリー水素製造コストの10分の1以下など既存エネルギーと同等のコストの実現、CCU/カーボンリサイクル製品の既存製品と同等のコストの実現など。

 

2. グリーン・ファイナンスの推進

基本的方向性として、イノベーション等を適切に「見える化」し、金融機関等がそれを後押しする資金循環の仕組みを構築することが示されました。

TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)等による開示や対話を通じた資金循環の構築、ESG金融の拡大に向けた取組の促進としてのグリーンボンド発行支援、ESG地域金融普及等が挙げられました。

 

3. ビジネス主導の国際展開、国際協力

基本的方向性として、日本の強みである優れた環境技術・製品等の国際展開/相手国と協働した双方に裨益(ひえき)するコ・イノベーションの推進等が示されました。

脱炭素技術の国際展開として、脱炭素技術の普及と温室効果ガスの排出削減としてのASEANでの官民イニシアティブの立上げの提案等や、CO2排出削減に貢献するインフラ輸出の強化、地球規模の脱炭素社会に向けた基盤づくりが挙げられました。

第4章 その他部門横断的な施策

その他の部門横断的な施策として、イノベーションのための人材育成も促進することや、 気候変動適応によるレジリエントな社会づくりとの一体的な推進、脱炭素社会に向かう際の労働移行を円滑に進めるため、国、地方公共団体、企業などが一体となって、各地域における職業訓練等を推進する公正な移行、そして専門的・技術的な議論が必要である旨が挙げられました。

第5章 長期戦略のレビューと実践

この長期戦略のレビューについては、6年程度を目安として、情勢を踏まえた検討を加えるとともに必要に応じて見直しするとされました。実践については、将来の情勢変化に応じた分析、連携、対話を行うことが挙げられました。

 

【参照】

経済産業省「第49回 中央環境審議会地球環境部会 産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会 合同会合」開催資料

 

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